阿波の遊山箱
私は阿波の徳島の生まれである。
徳島には昔から「遊山箱」と言う、徳島だけの珍しいモノがある。
「ゆさんばこ」と読み、山に遊ぶ箱と言う漢字から連想される様に、野山に行楽に出掛ける時に
持って行く子供用手提げ弁当箱の独自の呼び名である。
徳島は江戸時代から木工が盛んで、遊山箱は古くに職人が創り出した、阿波独自の伝統工芸
であり、他県には類を見ないモノである。
持ち手が付いた立方体の箱の1面がオカモチの扉の様に上下にスライドし、開けると中に3段の
小箱が重なって収納されている、塗りが施された木製の弁当箱である。
現在40歳ぐらい以上の徳島県人は、子供の頃に必ずと言っていいほどこの遊山箱の思い出が
あるはずである。 花見や端午の節句にはこの遊山箱に手作りの弁当を入れて貰って野山で
広げたものである。 上段には海苔巻きやバラ寿司、2段目はお煮しめ、3段目は阿波ういろう
や、サンキラの葉に包まれた柏餅が、必ずと言っていいほど入っていた。
近年はこの伝統の弁当箱もカゲをひそめて、徳島県人でも遊山箱を知らない人が増えていたが
ここに来てブームが再燃して来た事をNHKの全国版で知って、嬉しくなった次第である。
徳島の食器店や工芸店のインターネットの通信販売でも遊山箱の販売が活発化していると言う
ニュースも見た。 徳島だけに限らず広く遊山箱を知って頂き、家族で行楽に出掛けてお弁当を
広げる、なごやかで会話のある昔の生活を今一度見つめ直して欲しいと願っている。